X線パラメトリック下方変換

パラメトリック下方変換とは

ミクロ(微視的)な世界では、光は「波」と「粒子」の2つの 性質を合わせ持っています。以下では、光を粒子的に扱い、これを「光子」と呼びます。
 パラメトリック下方変換(parametric down-conversion、略してPDC)では、1つの光子が物質と非線形な相互作用することで、自発的に2つの光子に分かれます。「パラメトリッ ク」とは、この変換の前後で、物質の状態が変化しないことを言います。つまり、光子の持つ運動量とエネルギーが保存されます。

 さて、PDCは、さまざまな波長(エネルギー)の光に対して起こります。よく知られている例では、赤外領域でPDCを使って、「もつれ合った光子対」を 生成し、量子情報の研究に利用されています。ここでは最初の光子がX線である場合について考えます。

X線の特殊性

では、X線でPDCを行うことにどのような意義があるので しょうか?
 まず、
1.これまで誰も定量的に研究していない。
ことが挙げられます。X線PDCに関する理論的な研究は1970年前後に行われました。しかし、当時のX線光源では、X線PDCが起こることの確認以上の 詳細な情報を得ることが出来ませんでした。その後も、この極めて困難な研究はほとんど行われませんでした。
 次に、学術的には、
2.電子と光子の相互作用が可視光をはじめとする光学領域とは根本的に違う。
ので、これがどのように影響するのか興味深いと言えます。光学領域では、光は振動子強度を見ますが、X線では電子そのものを見ます。 簡単に言うと、X線を散乱する力は電子がどういう状態にいるかによりません。これは電子の状態が色としてはっきりと現れる光学領域とは大きく違います。
 また、下図のようにX線光子を2つに分けることで、
3.様々なエネルギーの光子が、変換に関わることが出来る。
ため、あとで見るように応用上重要です。